すごろくで負けた高野日向(ひゅうが)君(5)は、こたつの中でふくれ顔だ。祖母の松本宏子さん(53)が「人生、負けることだってあるんだよ」と笑い、小さな頭をなでた。
4人家族だった日向君は昨年3月11日、独りぼっちになった。
父典洋さん(当時31歳)と母里美さん(同25歳)、弟琉向(りゅうが)君(同5カ月)は福島県南相馬市の自宅近くで津波にのまれた。

里美さんたちを捜すうちに福島第1原発1号機が爆発。松本さんの家も警戒区域になり、孫を引き取っての避難生活が始まった。

「ママはどこ? いつ帰ってくるの?」。説明しようとしても言葉にならない。

典洋さんの火葬に日向君を連れて行った。「パパとバイバイしよう」と言うと「嫌だ」と泣き叫んだ。なのに控室で親族が静まりかえっていると、座布団を頭に乗せておどけた。「大人の心を敏感に読み取り、気遣っているんだ」。松本さんは涙ぐんだ。「かあか、泣かないでちょうだい」。小さな手が頬をぬぐった。
その日から、日向君は家族のことを話さなくなった。夜になっても、余震が来ても、泣かなかった。

1年前に着ていた服はもう小さい。「近所の子にあげようか」と切り出すと「この服、誰が買ったんだっけ」と確かめるように聞く。「ママだよ」「じゃあ、まだ着る」

東日本大震災:祖母支える小さな命 三春・高野日向くん 2012年3月11日 毎日新聞