妊娠8カ月で震災の犠牲になった岩手県陸前高田市の小鎚有花さん(当時24歳)の夫潤一さん(27)が、一周忌の法要を前に、妻がおなかに宿していた小さな命の法名を授かろうと考えている。お兄ちゃんになるはずだった長男悠陽(ゆうひ)君も2歳4カ月のやんちゃ盛り。

「この1年、家族4人で乗り越えてきた気がするんです」。法名に、その証しを残したいとの思いを込める。

「有花と一緒に、おなかの中で、懸命に生きようとしていたんですね」

有花さんも家族も、その日を心待ちにし、「陽詩(ひなた)」と名付けていた。潤一さんの母知子さん(54)は「震災後も、お店へ行くとつい女の子の服に手が伸びてしまって」。遺影の脇でベビー服のフリルが揺れる。

震災時1歳半だった悠陽君は、母の記憶が曖昧だ。それでもいつしか遺影を「ママ」と呼ぶようになった。

「この街にいれば、震災で母親が亡くなったことも、妹ができるはずだったことも、いつか悠陽に自然な形で伝えられる気がするんです」

東日本大震災:津波で妻死亡 おなかの子にも法名を 2012年2月15日 毎日新聞
 
 

岩手県陸前高田市の会社員、小鎚(こづち)潤一さん(26)が長男悠陽(ゆうひ)ちゃん(1歳7カ月)とともに捜し続けていた妻有花(ゆか)さん(24)が市内で遺体で見つかった。

これからは、有花さんとの思い出を胸に父子2人で前を向いて生きていくつもりだ。

長女になるはずだった陽詩(ひなた)ちゃんの出産予定日は16日だった。

有花さんの父、菊田白世(しろせ)さん(62)は男手一つで2人の子どもを育てた。きっと有花さんは、父と悠陽ちゃんのことを心配しているに違いない。火葬に際し、潤一さんは改めてこう声をかけるつもりだ。
「2人のことはおれに任せてくれ。これまでありがとう」

東日本大震災:捜し続けたママ、遺体で おなかに妹も 2011年5月14日 毎日新聞