鳥居勢矢君(12)は父康則さん(40)を亡くした。家族を支えてくれた父に報いるためにも、立派な大人になりたい。「天国にいるお父さんにぼくの名前が届くように」。涙を見せずにつづった8行に、父への思いがにじんだ。

康則さんはカキ養殖の漁師だった。地震発生時は自宅にいたが、「船が心配だ」と約200メートル離れた漁港に走った。「津波さ来るから逃げろ」。勢矢君の祖父や漁師仲間の制止も振り切り、船を陸揚げしようとしていたという。

町の小学生陸上大会の百メートル走と二百メートル走で優勝した時、父から褒美にもらったゲームソフトは波にさらわれた。だが、間もなく進学する中学校の制服は泥にまみれて残っていた。先月、制服姿を父に披露した。「なかなか似合ってるじゃないか」。父の笑顔は、今も忘れられない。

「僕が頑張っている姿を見せることで、天国にいるお父さんに元気を出してほしい」

亡き父に届け、8年後の自分へ手紙 2011年3月29日 毎日新聞