東日本大震災の津波の被害を受けた岩手県野田村で、人気店「はまなす食堂」を経営していた佐藤隆幸さん(53)は、店を飛び出して消防団の車で避難を呼び掛け、消防団員として村民の命を救ったが、自らは津波にのまれた。

孫たちに「あの車に乗っているおじいさんはかっこいい」と言われていた赤い車は大破して見つかった。妻美紀子さん(57)は車を見つめ「この車で夫は一番輝いていました」と振り返る。

地震発生時、佐藤さんは美紀子さんと食堂で働いていた。「みんな会社だから(団には)俺と団長しかいねえ」。そう言うと、佐藤さんは2人の客を残して店を飛び出した。野田村消防団第8分団の団員で、地震や火事ではすぐに駆け付けるのが習慣だった。
佐藤さんの呼び掛けで助かった人もいる。近藤勝利さん(73)は自宅で佐藤さんの声を聞いた。「大津波が来る」。裏山に避難した直後、大きな津波が自宅と佐藤さんをのみ込むのを見たという。
佐藤さんは「消防署に任すのではなく、村は自分たちが守る」という意識が強かった。

避難呼び掛け津波に 村民救った消防団員 2011年4月4日 毎日新聞