消防士、阿部宏勤(ひろのり)さん(29)。震災の日は非番だったが、消防署に急行した。津波は署にも迫った。署員13人は屋上にたどりついたが、同僚を誘導していた宏勤さんら2人は間に合わず

「本当にまじめな子だから」。写真をみつめる母由美子さん(59)の目から涙がこぼれ落ちた。由美子さんは地震直後、「一緒に逃げよう」と促したが、消防服に着替えた宏勤さんは「おれは仕事にいく。お母さん落ち着いて、慌てずにな」。それが最後になった。

宏勤さんは歯を食いしばり、拳を握り締めていた。手首には救急救命士を目指して買った防水時計。「今もちゃんと動いてます」。父義雄さん(61)は左手の形見をいとおしそうに見つめた。「不器用だけど、野球も仕事も仲間に支えられ、地道に取り組んだ。息子なりに仕事をまっとうしたんでしょう」
「宏勤は人一倍の努力家だった」と元遊撃手の小国晶貴さん(29)。練習後、ランニングや素振りを欠かさず、準決勝で負けた時、ただ一人ベンチ前で泣き崩れた姿が忘れられない。

殉職の消防士…「ミラクル大槌」元一塁手 2011年3月29日 毎日新聞