瑠璃さんは学校で吹奏楽部の練習中だった。教室の天井が落ち、校庭へ逃げた。3時21分、宜子さんから携帯電話にメールが届いた。「落ち着いて。あなたはそこにいなさい」

体育館で一夜を明かし、翌日の昼過ぎ、親戚が迎えに来た。「家族は」と尋ねると、言葉を濁された。
市嘱託職員の宜子さんは、避難所となっていた市民会館で被災者の世話をしようとした時、濁流にのまれた。

「私はホルンを吹いていたのよ」。瑠璃さんが9歳で小学校のバンドに入ってトランペットを始めると、宜子さんはうれしそうだった。

演奏会に熱心に来てくれた。「すごくよかった」「次も頑張ってね」。演奏が終わると、宜子さんは必ず声をかけてくれた。

「母さん用意してくれた舞台…」負けないで、東京で吹く 2011年5月15日 朝日新聞

がれきで覆われた岩手県陸前高田市。佐々木瑠璃さん(17)は11日、自宅跡に立ち、行方不明者の捜索が続く海に向かってZARDの「負けないで」をトランペットで吹いた。津波で母親の宜子さん(43)、祖母の隆子(りゅうこ)さん(75)を亡くし、祖父の廣道(こうどう)さん(76)は行方不明のままだ。

私は元気だよ 家族奪った海へ、追悼のトランペット 2011年4月11日 朝日新聞