岩手県陸前高田市小友(おとも)町。ウミネコが「ククク」と鳴きながら、がれきの上を飛んでいく。佐々木繁さん(31)は土台しかない自宅の跡地に立ち、ウミネコが飛び去った方を指さした。「2キロ先のあの山の向こうで、父の遺体が見つかりました」。傍らの妻麻里子さん(28)がつぶやく。「お母さんと離ればなれになって、さみしかっただろうな」
母光子さん(54)はいまだに行方が分からない。死亡届の緩和措置が取られたが、繁さんは届けを出すつもりはない。「31年間育ててくれた人。自分の手で死なせられない」

長距離トラックの運転手をしていた父志津夫さん(54)は夕方出勤のため眠っていた。職場で被災した繁さんは4月3日、冷たくなった志津夫さんを遺体安置所で確認した。津波におぼれたのだろう。ひどく苦しそうな顔を見て、泣き崩れた。
志津夫さんと光子さんは約35年前に結婚。いつも新婚夫婦のようだった。頻繁に家を空ける志津夫さんは光子さんと毎日何度も携帯電話でやりとりし、家族そろって食卓を囲む時間が大好きだった。

東日本大震災:あきらめない 不明家族の手がかり求め 2011年6月11日 毎日新聞